大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 昭和57年(行ウ)4号 判決 1996年3月27日

奈良市西大寺東町二丁目一-六三

原告

辰巳寿一

右訴訟代理人弁護士

佐藤真理

吉田恒俊

相良博美

奈良市登大路町八一番地

被告

奈良税務署長 有年弘之

右指定代理人

一谷好文

真狩誠

福島廣

榎友三

西仲光弘

藤野喜与治

石原英之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が、昭和五五年一二月二五日付けで原告の昭和五二年分ないし昭和五四年分の所得税についてした更正のうち、昭和五二年分につき所得金額一七〇万円、納付すべき税額九万九六〇〇円、昭和五三年分につき所得金額一七〇万円、納付すべき税額九万六〇〇〇円、昭和五四年分につき所得金額一八〇万円、納付すべき税額一〇万八〇〇〇円を超える部分並びに右各年分の過少申告加算税賦課決定をそれぞれ取り消す。

第二事案の概要

被告が、原告の昭和五二年分ないし昭和五四年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得金額につき、原告が帳簿書類等の資料を提出しないため所得金額を確認できないとして、反面調査によって仕入金額を把握し、同業者比準による推計によって所得金額を算出して更正及び過少申告加算税賦課決定をしたところ、原告が、被告の調査手続は違法であり、右推計につきその必要性及び合理性は認められず、また、所得の実額も推計金額と異なるとして右更正及び決定の取消しを求めた事案である。

【争いのない事実】

一  原告について

原告は、本件各係争年当時、奈良市西大寺東町及び中京一丁目において新刊の書籍・雑誌及び文房具類の小売業を、奈良市西の京四五〇において雑誌の外商を営むいわゆる白色申告者である(以下、原告の西大寺東町の店舗を「西大寺店」、右京の店舗を「平城店」といい、西の京の倉庫兼作業場を「外商部」という)。

二  本件課税の経緯

1 原告は、被告に対し、本件係争年分の所得につき次のとおり申告をした。

(一) 昭和五二年分

所得金額 一七〇万円

納付すべき税額 九万九六〇〇円

(二) 昭和五三年分

所得金額 一七〇万円

納付すべき税額 九万六〇〇〇円

(三) 昭和五四年分

所得金額 一八〇万円

納付すべき税額 一〇万八〇〇〇円

2 被告は、これに対し、本件各係争年分の原告の所得を把握することができないとして、反面調査によって原告の仕入金額を把握し、同業者比率によって所得金額を推計し、昭和五五年一二月二五日付けで次のとおり各更正(以下「本件各更正」という)及び各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各決定」という)をした。

(一) 昭和五二年分

(1) 所得金額 七九三万二〇一〇円

(2) 納付すべき税額 一四九万五七〇〇円

(3) 過少申告加算税額 六万九八〇〇円

(二) 昭和五三年分

(1) 所得金額 七九八万八九九八円

(2) 納付すべき税額 一五〇万四二〇〇円

(3) 過少申告加算税額 七万〇四〇〇円

(三) 昭和五四年分

(1) 所得金額 九三一万三六〇三円

(2) 納付すべき税額 一九七万五三〇〇円

(3) 過少申告加算税額 九万三三〇〇円

3 原告は、本件各更正及び本件各決定を不服として、被告に対し、異議申立てをしたが、昭和五六年五月一三日付けで右各申立てを棄却する旨の決定がされ、さらに、国税不服審判所に対し、審査請求をしたが、昭和五七年三月一二日付けで棄却の裁決がされた。

三  争いのない経費項目

原告の経費のうち、次の項目は争いがない。

1 支払販売手数料を除く一般経費

昭和五三年分 七〇六万七五八五円

昭和五四年分 五七八万二六八八円

2 池沢徳、渡辺善秀、松本久司、間路健一及び利川利夫(以下「池沢ほか四名」という)に対する給与を除く給与賃金、地代家賃、利子割引料

昭和五三年分 一二三三万五九五四円

昭和五四年分 九三五万五〇八五円

3 事業専従者控除

昭和五四年分を除き四〇万円

【争点】

原告は、被告の調査手続は違法であり、推計の必要性及び合理性は認められず、また、売上げの実額(昭和五二年分については、原告の昭和五三年分又は昭和五四年分の実額を基にした推計によって算定した額)を主張して、被告の本件課税は違法であると争っており、本件の争点は、<1>調査手続の適法性、<2>推計の必要性、<3>推計の合理性、原告主張の売上げの実額の存在の四点である。

《調査手続の適法性、推計の必要性》

一  被告の主張

被告所属の職員は、本件係争年分の原告の所得の調査のため、原告の西大寺店や平城店を訪れ、原告に対し本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類の提示及び事業内容の説明を求めたが、原告は帳簿を提示せず、また、事業の実態についての説明を何ら行わなかった。そこで、被告はやむを得ず、原告の仕入先等について反面調査を行い、その結果に基づき、本件係争年分の原告の所得を推計によって算定して本件各更正及び本件各決定をしたのであり、調査手続は適正であって推計の必要性がある。

二  原告の主張

被告所属の職員は、原告に対し、何ら税務調査の理由を開示せず、しかも、原告が帳簿資料の提供を言明しているにもかかわらず、いきなり原告の取引先に反面調査をしている。さらに、原告が一部の資料を提出したにもかかわらず、被告はそれを全く検討していない。したがって、本件の税務調査手続は違法であり、また、推計の必要性もないから、本件各更正及び本件各決定も違法である。

《推計の合理性》

一  被告の主位的主張

別表1「事業所得の計算」記載のとおり、本件各係争年分の所得金額は次のとおりである。

<1> 昭和五二年分 一四二一万四三二五円

<2> 昭和五三年分 一三五二万六七七二円

<3> 昭和五四年分 一六八七万二一四一円

1 昭和五三年分及び昭和五四年分について

(一) 仕入金額

明細は別表2及び3記載のとおりである。

原告の期首及び期末のたな卸資産は明らかでないので、各年分とも同額とした。

(二) 売上金額

右(一)の売上原価に対して別表7、8記載の同業者の平均原価率で除して算定した金額である。

(三) 一般経費

原告が審査請求の際に申し立てた金額である。

(四) 雑収入

別表6のとおりである。

(五) 特別経費

別表1の<20>給与賃金、<21>地代家賃及び<22>利子割引料は原告が審査請求の際に主張した金額であり、この点について当事者間に争いはない。

また、別表1の<23>「池沢徳ほか四名給与」の明細は別表5記載のとおりであり、池沢徳及び利川利夫については最も金額の多い渡辺善秀と同額とした。

なお、原告は、昭和は五三年分の貸倒金として三九万四一九〇円を主張している。

(六) 事業専従者控除額

一人分の四〇万円である。

(七) 事業所得金額

昭和五三年 一三五二万六七七二円

昭和五四年 一六八七万七二一四円

2 昭和五二年分について

(一) 仕入金額

別紙4のとおりである。

(1) 原告の期首及び期末のたな卸資産は明らかでないので、期首及び期末とも同額とした。

(2) 上田商事分については一月分から五月分までを同年六月から一二月分までの取引をもとに別表4の「参考」欄(1)記載の算式により算出した金額を加算した。

(3) 推計加算分

昭和五三年分及び昭和五四年分については、全教材、ナンバー出版、北村書房、鶴書房等からの仕入れがあるのに対し、昭和五二年分については捕捉漏れがあり、別表4の「参考」欄(2)記載のとおり昭和五三年分と昭和五四年分の補足漏れの割合を平均して昭和五二年分の捕捉漏れ分を推計した。

(二) 売上金額

右(一)の昭和五二年分の売上原価を別表9記載の同業者の平均原価率で除して算定した金額である。

(三) 特別経費控除の金額

原告の昭和五二年分の売上金額に同人の昭和五三年分及び昭和五四年分の特別経費控除後の金額に対する割合の平均値(いわゆる本人率)を乗じて算定した金額である。

(四) 専業専従者控除額

一人分の四〇万円である。

(五) 所得金額

一四二一万四三二五円

3 同業者の選定について

原告の事業は<1>新刊の書籍、雑誌及び文具類の小売業と<2>スタンド業者(書籍の小売業を本業としない者〔パン屋、タバコ屋等〕と契約し、週刊誌を主とした雑誌の販売を委託する者)を兼ねていた。

そこで、葛城、豊能、奈良、泉佐野及び尼崎税務署管内で申告している同業者及び出版物の取次店、卸元等から選択したスタンド業者の中から係争各年分について、次の基準に該当する別表7ないし9記載の五業者を選定した。この選定基準は原告の事業と業種、業態及び事業規模が類似しているから、比準同業者としては合理的である。

<1> 新刊の書籍及び雑誌の小売店舗を有していること

<2> スタンド業者を兼ねていること

<3> 青色申告書を提出していること

<4> 年間を通じて事業を継続していること

<5> 不服申立て又は訴訟係属中でないこと

<6> 売上原価が昭和五二年分及び昭和五三年分は八〇〇〇万円から三億二〇〇〇万円、昭和五四年分は九〇〇〇万円から三億六〇〇〇万円であること(原告の売上のおおむねほぼ倍半とした。)

二  被告の予備的主張

別表10「事業所得の計算」記載のとおり、本件各係争年分の所得金額は次のとおりである。

<1> 昭和五二年分 一四九三万一五五七円

<2> 昭和五三年分 一五八一万〇〇三八円

<3> 昭和五四年分 一五九〇万四五三〇円

1 売上原価、一般経費、事業専従者控除額、昭和五三年分及び昭和五四年分の雑収入、特別経費のうち支払販売手数料を除く給与賃金、地代家賃、利子割引料並びに池沢ほか四名の支払給与主位的主張と同じ

2 昭和五三年分及び昭和五四年分について

(一) 売上金額

原告は、<1>本件各係争年分当時のスタンド店への販売委託の割合が全金額のおおむね五〇パーセント相当額であること及び<2>右スタンド店へは定価の一〇パーセントの販売手数料を支払っていることを主張している。そこで、同業者五件のうち支払販売手数料の売上金額に占める割合から判断して販売委託の割合が原告に近いと考えられ、また、雑誌を取り扱う割合も似ている別表11記載の「葛城A」及び「豊能B」が、原告の業態に最も近似しているので、右二件の同業者の平均原価率によって売上金額を推計した。

(二) 支払販売手数料

原告は、池沢ほか四名のスタンドディーラーを雇って、スタンド店に雑誌を配達し、その販売を委託しており、スタンド店に対して販売定価の一〇パーセントの手数料を支払っていることから、別表12のとおり算定した。なお、原告主張のスタンド店販売分のうち、仲間売取扱分、間路健一分及び昭和五三年のうち利川利夫分は一月から九月までは月一〇万円の給与を支払っているのでその分を控除して計算した。

(三) 事業所得金額

昭和五三年分 一五八一万〇〇三八円

昭和五四年分 一五九〇万四五三〇円

3 昭和五二年分について

(一) 売上金額

売上金額を別表11記載の「葛城A」及び「豊能B」の平均原価率で除して算定した金額である。

(二) 特別経費控除後の金額

売上金額に昭和五三年分及び昭和五四年分の特別経費控除後の金額の売上金額に対する割合の平均値を乗じて算定した金額である。

(三) 事業所得金額

一四九三万一五五七円

《推計の合理性に対する認否及び反論》

一  認否

1 売上原価のうち別表2ないし4の乙号証番号等欄に「争いなし」と記載された分及び昭和五二年分の上田商事について六月から一二月まで原告主張額が存在することは認め、それ以外の主張は否認する。

2 昭和五三年分及び昭和五四年分の一般経費及び池沢ほか四名の給与を除いた給与賃金、地代家賃及び利子割引料は認めるが、昭和五三年分について更に貸倒金三九万四一九〇円が存在する。

3 雑収入、事業専従者控除については、被告主張額を認める。

4 売上金額、池沢ほか四名の給与、支払手数料はいずれも争う。池沢ほか四名は原告の従業員ではなく、原告は池沢らに商品を定価の八割で卸しており、販売委託はしていない。また、仮に、池沢ほか四名が従業員であり、原告が委託販売をしているとしても、委託販売手数料は一〇パーセントでなく、一〇・五パーセントであり、その給与及び支払販売手数料は別表(10)記載のとおりである。

二  被告の主位的主張について

原告は、スタンド店に委託販売をしており、その割合も売上げの約六一パーセントであり、同業者の平均原価率を適用して売上金額を算出する場合、右売上げに占める委託販売の割合及びその手数料は原価率を算出する場合に影響が生じるものであるから、被告の主位的主張の同業者の選定は合理性を欠く。

三  被告の予備的主張について

1 被告は<1>原告のスタンド店への委託販売の売上に占める割合がおおむね五〇パーセントであること及び<2>手数料が一〇パーセントであることを前提として推計しているが、原告の売上に占める委託販売の割合は約六一パーセントであり、比準同業者の右割合は約八二パーセントと四二パーセントであるから別表11の葛城A及び豊能Bは比準同業者として業態の類似性を欠き、また、手数料も一〇・五パーセントであるから、本件推計は合理性を欠いている。

2 比準同業者が二件にとどまっている上、この二件についても売上げに占める卸売の割合は約八二パーセント、約四九パーセントと倍近い差があるので、業態の違いが大きく、二件の同業者に基づく推計は合理性を欠く。

3 原価率を同業者比準で算出する場合には、保有店舗数、店舗の面積・立地条件、顧客数、顧客層、従業員数、取扱商品の内容等の種々の条件の同一性が検討されなければ、推計は合理性を持ち得ない。そして、本件では、比準同業者に関し、<1>小売と卸売の割合がどの程度か、<2>卸売についてどの程度利益があるか、<3>店舗売における書籍と雑誌の割合はいくらかが重要であるのに、被告は、何ら右三点について比準同業者が原告に類似していることを主張・立証していない。被告がこの点で業態の類似性を主張・立証しない以上、推計の合理性を欠くというべきである。

4 被告は、原告が、池沢ほか四名のスタンドディーラーを雇って、スタンド店に雑誌を配達し、その販売を委託しており、スタンド店に対して販売定価の一〇パーセントの手数料を支払っているとして、販売金額から雇用費及び委託販売手数料を控除して所得金額を算出しているが、池沢ほか四名は原告の従業員ではなく、原告は右の者に定価の八割で販売しているにすぎないから、右の算出方法は合理性を欠く。また、仮に、そのような形態であるとしてもその金額は別表(10)記載のとおりである。

《実額主張》

一  原告第一主張

別表(1)記載のとおり、本件各係争年分分の所得金額は次のとおりである。

<1> 昭和五二年分 一九万一九一三円

<2> 昭和五三年分 一六八万〇九八〇円

<3> 昭和五四年分 一〇五万九二六七円

1 売上げ

(一) 昭和五三年分(実額主張)

小売部門は別表(4)、卸売部門は別表(5)記載のとおり

(二) 昭和五四年分(実額主張)

小売部門は別表(2)、卸売部門は別表(3)記載のとおり

(三) 昭和五二年分

昭和五二年分の売上原価を昭和五四年分の原価率(後記2(二)÷右(二))の〇・九二七三で除して算定した金額である。

2 売上原価

(一) 昭和五三年分

別表(6)記載のとおり

(二) 昭和五四年分

別表(7)記載のとおり

(三) 昭和五二年分

別表4の原告主張額欄記載のとおり

3 一般経費

(一) 昭和五三年分及び昭和五四年分については当事者間に争いがない。

(二) 昭和五二年分については昭和五四年分の一般経費率(一般経費÷売上原価)〇・〇三一四を右昭和五二年分の売上原価に乗じて算出した金額である。

4 雑収入

(一) 昭和五二年分 九九万七七七〇円(当事者間に争いがない。)

(二) 昭和五三年分 別表(8)記載のとおり

(三) 昭和五四年分 別表(9)記載のとおり

5 特別経費

(一) 昭和五三年分及び昭和五四年分については、昭和五三年分の貸倒金を除いて当事者間に争いがなく、昭和五三年分に貸倒金三九万四一九〇円があった。

(二) 昭和五二年分については、昭和五三年分の特別経費率(特別経費÷売上原価)〇・〇五〇八を右昭和五二年分の売上原価に乗じて算出した。

6 事業専従者控除額

昭和五二年分は被告主張額より少ない一九万一九一二円であり、それ以外は四〇万円であることに当事者間に争いがない。

二  原告第二主張

別表(10)の記載のとおりであり、池沢ほか四名が原告の従業員であるとしても、池沢ほか四名には定価の八〇パーセントで卸しているので、第一主張よりその分売上金額が増加する一方、池沢ほか四名は売上げのうち九・五パーセントを給与として得ているから原告の所得は次の計算のとおりとなる。

別表(10)記載のとおり、本件各係争年分の所得金額は次のとおりである。

<1> 昭和五二年分 四九万六九三五円

<2> 昭和五三年分 一七六万一八五九円

<3> 昭和五四年分 一一三万四一二三円

1 売上金額

(一) 昭和五三年分

(1) 小売分 原告第一主張と同じ。

(2) 卸売分 一億一九二二万八一四五円

原告が、昭和五三年分において外商部(辰巳書店)で取り扱っている分については、定価の八九・五パーセントでスタンド店に卸していたので、その分の卸売売上げは定価の八九・五パーセントとなる。昭和五三年分の卸売分原価九五三八万三五一六円から右辰巳書店取扱分一〇七三万〇一六七円を控除した八四六五万三三四九円を卸売比率(〇・八)で除した金額と、右辰巳書店取扱分〇・八九で除した金額との合計額である。

(二) 昭和五四年分

(1) 小売分 原告第一主張と同じ。

(2) 卸売分 一億三八八二万三六一一円

卸売分の原価(一億一一〇五万八八八九円)を定価額に対する卸売比率(〇・八)で除した金額である。

(三) 昭和五二年分

昭和五二年分の売上原価を原告主張の昭和五三年分の原価率(売上げ原価÷売上金額)〇・七九七一で除した金額。

2 支払販売手数料

(一) 昭和五四年分について

池沢ほか四名のうち間路健一を除く四名(以下「池沢ほか三名」という)はスタンド店に一〇・五パーセントの支払手数料を支払っている。また、間路健一は定価販売をしているので、次のとおり算出する。

(1) 昭和五四年分の卸売定価額 一億三八八二万三六一一円

別表(3)は池沢ほか四名の卸売の売上額であるので、定価の八〇パーセントの金額であるから、この金額一億一一〇五万八八八九円を〇・八で除した金額

(2) 右のうち間路健一及び仲間売りの卸売定価額(間路健一及び仲間売り分はスタンド店への販売ではない。) 一五三五万五八一三円

間路健一取扱分の一一九八万五二三四円に仲間売卸売分の二九万九四一七円を加え、定価分の〇・八で除した金額

(3) スタンド店への卸売定価額 一億二三四六万七七九八円

右(1)の卸売定価額から(2)の間路健一及び仲間売りの卸売定価分を控除した金額

(4) スタンド店への販売手数料 一二九六万四一一八円

右(3)のスタンド店への卸売定価額売価格に手数料〇・一〇五を乗じた金額

(二) 昭和五三年分について

間路健一との取引は昭和五四年三月ころに始まり、昭和五三年には間路健一との契約関係はなかったので、次のとおり算出する。

(1) 池沢ほか三名に対する卸売定価額 一億〇五四一万二三三六円

別表(5)は定価の八〇パーセントの金額であるから、卸売合計額から辰巳書店取扱分及び仲間売り分を控除した数値八四三二万九八六九円を〇・八で除した金額

(2) 辰巳書店取扱分に対する卸売定価額 一一九八万九〇一三円

辰巳書店取扱分は定価の八九・五パーセントであるので、別表(5)の辰巳書店取扱分一〇七三万〇一七六円を〇・八九五で除した金額

なお、仲間売り分は同業者に雑誌を回した分であり、手数料は出てこない。

(3) 支払販売手数料 一二三二万七一四一円

右(1)の池沢ほか三名に対する卸売定価額に(2)の辰巳書店取扱分の卸売定価額を加え、支払手数料率一〇・五パーセントを乗じた金額

(この場合、西大寺店取扱分一〇・五パーセント支払っている。)

(三) 昭和五二年分 一一九八万六九九二円

右(二)の(3)の昭和五三年分の支払手数料を昭和五三年分の売上原価で除して昭和五三年分の支払販売手数料〇・〇七四二を算定し、昭和五二年分の売上原価に右手数料率を乗じた金額

3 池沢ほか四名の支払給与

(一) 昭和五四年分

(1) 卸売定価額 一億三八八二万三六一一円

(2) 右のうち間路健一及び仲間売りの卸売定価額 一五三五万五八一三円

(3) 池沢ほか三名の取扱いの卸売定価額 一億二三四六万七七九八円

右(1)から(2)を除した金額

(4) 池沢ほか三名の収入 一一七二万九四四〇円

右(3)に池沢ほか三名の手数料である〇・〇九五を乗じた金額

(5) 間路健一の卸売定価額 一四九八万一五四二円

間路健一取扱分一一九八万五二三四円を卸売比率〇・八で除した金額

(6) 間路健一の収入 二九九万六三〇八円

(5)に間路健一の手数料二〇パーセントを乗じた金額

(7) 支払給与合計 一四七二万五七四八円

(4)に(6)を加えた金額数値

(二) 昭和五三年分

間路健一との契約はないので、辰巳書店取扱分と仲間売取扱分を除外して算出した。

(1) 池沢ほか三名の卸売定価合計額 一億〇五四一万二三三六円

別表(5)の右の者の卸合計額八四三二万九八六九円を卸売比率〇・八で除した金額

(2) 支払給与合計 一〇〇一万四一七一円

右(1)に手数料である〇・〇九五を乗じた金額数値

(三) 昭和五三年分 九七四万一四五〇円

右(二)の昭和五三年分の支払給与合計を売上原価で除して給与率を算定し(〇・〇六〇三)、昭和五二年分の売上原価に乗じた金額

4 原告第一主張と異なる昭和五二年分の項目

(一) 一般経費 六八六万五八六五円

昭和五三年分の売上原価に対する一般経費の割合経費額の売上原価額に対する割合(売上原価率)〇・〇七六六に昭和五二年分の売上原価を乗じた金額

(二) 特別経費 一二三七万四七一二円

昭和五三年分の売上原価に対する池沢ほか三名に対する給与を除した特別経費の割合(売上原価率)〇・〇七六六に昭和五二年分の売上原価を乗じた金額

(三) 事業専従者控除額 四〇万円

《原告の主張に対する被告の反論》

原告第一主張は、売上げについて実額を主張しているが、本件係争年分について原告の提出した証拠によっては、実額で算定することはできない。また、第二主張も、外商部でスタンドへの雑誌の委託販売業務を行っていた池沢ほか四名に対する支払を給与とし、その額を、同人らをディーラーとした場合の取り分に単に上乗せしただけの主張であり、原告第一主張と変わらないものである。

第三争点に対する判断

【調査手続の適法性、推計の必要性について】

一  乙二三ないし二五、証人島田文彦及び原告の供述によれば、次の事実が認められる。

被告所属の島田文彦係官(以下「島田係官」という)が、昭和五五年一〇月二三日、本件係争年分の原告の所得の調査のため、原告の西大寺店を訪れ、原告に対し、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類の提示及び事業内容の説明を求めたところ、原告は税務調査の理由の説明を求め、帳簿書類を提示しなかったため、島田係官は原告の仕入れの反面調査を行った。そして、島田係官は、同年一二月三日、再度原告と面会し、帳簿書類の提示を求めたが、原告は西大寺店と平城店の昭和五四年分の月別売上げ・仕入れの集計表一枚を提示したのみで、右集計表の基礎となった原資料の提示をしなかったため、島田係官は右反面調査の結果に基づいて原告の所得金額を集計によって算出した所得金額を提示し、修正申告に応じるように求めたが、原告は応じなかった。そして、島田係官は、原告に対し、帳簿書類の提示がないのであれば、更正をせざるを得ない旨を告げて帰った。そして、島田係官は同月一七日、再度、原告と会って帳簿書類の提示を求めたが、原告は提示しなかった。

以上の事実によれば、被告は本件係争年分の原告の所得を確認することができなかったので、やむを得ず、原告の仕入先等について反面調査を行い、その結果に基づき、本件係争年分の原告の所得を推計によって算定して本件各更正及び決定をしたと認められるから、被告の調査手続は適法であり、かつ、推計の必要性もあるといわなければならない。

二  これに対し、原告は、島田係官が、原告に対し、何ら税務調査の理由を説明せず、しかも、原告が帳簿資料の提供を言明しているにもかかわらず、いきなり原告の取引先に反面調査をしているから違法であると主張しているが、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は法律上一律の要件とされているものではなく、その告知は税務係官の合理的な裁量に委ねられているものであり、また、いかなる場合に納税者の取引先に反面調査を行うかも税務係官の合理的な裁量に委ねられているというべきであり、本件について、島田係官に裁量を逸脱するような事情は何ら認められない。原告は、さらに、原告が一部の資料を提出したにもかかわらず、被告がそれを全く検討していないことを理由として、推計の必要性がないと主張するが、原告が提示した書類は原資料ではなく、集計表にすぎないから、これにより原告の所得を確認することができないことは明らかである。したがって、原告の主張は採用できない。

【原告の実額主張について】

一1  推計課税も実額課税も客観的に存在する所得を認識するための方法の差にすぎず、帳簿書類等の直接資料によって計算された所得金額の方が、間接的な資料によって計算された所得金額よりも、一般的には真実の所得に近似すると考えられるから、原告の主張する実額に客観的な帳簿書類による裏付けがあると認められるときは、被告の主張する推計の方法が合理的なものと認められるか否かの点を問うまでもなく、原則として実額をもって原告の各年分の所得の額とすべきである。

2  原告第一主張は、昭和五三年分及び昭和五四年分については売上げの全部を実額で主張し、昭和五二年分は昭和五四年分の主張をもとに原価率を算定して推計により売上金額を主張している。また、原告第二主張も昭和五三年及び昭和五四年分の小売分の売上金額については実額を、卸売分については池沢ほか四名によって配送されて販売された実額をもとに、推計によって売上金額を算出し、昭和五二年分は昭和五三年分の主張をもとに原価率を算定して推計により売上金額を主張している。したがって、いずれの主張も、原告主張の小売分及び卸売分の主張が認められるか否かの点を判断すべきこととなる。

3  そして、本件のように売上原価から売上金額を推計により算出する場合には、原告が主張する実額が右売上原価に対応するものであること、すなわち、右実額が原告の総売上であることの立証を原告の側で尽くすべきである。

二  以上の点から原告の主張を検討する。

1  原告の供述によれば、原告の小売分販売の業態は現金取引と売掛金取引(甲三〇、三一)であり、現金についてはレジスターによって現金管理を行っていることが認められる。このような場合、原告の売上を認定する上で最も重要な証拠は、原告の小売売上がレジスターに打ち込まれているレジテープ・シートであるから、原告主張の売上が総売上であり、捕捉漏れがないことを認定するためには、原則として、<1>右レジテープ・シートの原始版が保存されていること及び<2>それを打ち直して現金を抜き取る操作が行われないように、原告により購入されたレジテープ・シートの払受管理が明確に行われていたことを原告が立証しなければならない。

2  原告は、西大寺店及び平城店の現金管理をレジスターで行い、毎日レジスターの現金残高とレシートの金額を照合し、レジスターの打ち漏れ、打ち誤りを補正した上、一連の番号を付した入出金伝票(甲二二、二三)を翌日に作成し、現金出納帳に転記したと供述している。しかしながら、レジテープ・シートは昭和五四年分の一部(甲七四)しか証拠として提出されておらず、レジスターから出入金伝票が適正に作成されたか否かの点を確認することができないところであり、しかも、甲二二の入出金伝票と甲七四レジテープ・シートの控えとの間にも過少に転記されたもの(昭和五四年七月五日など)が認められる。さらに、原告本人は、西大寺店の昭和五四年分の売上が、仕入から見て五〇〇万円以上少なかった旨供述しており(原告本人の第二〇回口頭弁論調書)、その原因について納得できる説明はされていない。

したがって、原告主張の売上げの実額が原告の総売上げであるということは困難であり、ほかにこの点を的確に裏付けるべき事実関係を認めることはできない。結局、この点の原告の主張は採用できない。

【推計の合理性について】

一  被告の主位的主張について

後記二の2のとおり、原告はスタンド店に委託販売しており、その割合もかなりの比率であることが認められる。同業者の平均原価率を適用して売上金額を算出する場合、右売上げに占める委託販売の割合及びその手数料は原価率を算出する場合に影響が生じるものであるから、この点を全く考慮せずに委託販売手数料が極めて過少な別表7ないし9記載の「奈良C」、「泉佐野D」及び「尼崎E」の業者を選択してその平均原価率を当てはめて算出した被告の主位的主張は合理性を欠くものといわなければならない。

したがって、被告の主位的主張は採用できない。

二  被告の昭和五三年分及び昭和五四年分の予備的主張について

1  仕入原価

別表2ないし3の乙号証番号等欄記載に「争いなし」と記載された仕入れは当事者間で争いがなく、それ以外の昭和五三年分及び昭和五四年分の仕入れは乙一二ないし二二、三四により認められる。

したがって、被告主張額の仕入原価が存在すると認めることができる。

2  売上金額、池沢ほか四名の給与、支払販売手数料について

(一) 池沢ほか四名が従業員であり、原告が委託販売をしているか否かについて

(1) 括弧内に記載された証拠によれば、次の事実が認められる。

<1> 渡辺善秀及び松本久司は、国税審判官の調査に対し、原告から給料をもらってスタンド店に雑誌を配送しており、定価の九〇パーセントを集金していたこと、池沢徳も同様であったことを供述している(乙二六の2)。

<2> 松本久司は国税事務官である黒仁田修に対し、年六〇万円くらいで原告のところに雑誌の配送のアルバイトをしていたこと、池沢徳、渡辺善秀も同様に配送の仕事をしていたこと、スタンド店から定価の九〇パーセントを集金していたこと、集金した金は全て原告に渡していたことを供述している(乙二七、証人黒仁田修の供述)。

<3> 池沢徳は、黒仁田修に対し、原告から独立してやってみないかという話があったがみんな断ったこと、アルバイト雑誌の配送をしていたが、区域割があったこと、定価の九〇パーセントを集金していたことを供述したが、調書に署名押印することは拒否した(乙三六の2、証人黒仁田修の供述)。

(2) 以上の事実によれば、池沢ほか四名は原告が雑誌の配送のために雇っていた従業員であると認められる。

これに対し、原告は、昭和五二年に池沢らをスタンドディーラーとして独立させたもので、それ以降は定価の八〇パーセントで卸していたと主張し、原告本人、証人松本久司及び同間路健一は右主張に沿う供述をしている。しかし、右各供述には次のとおりの疑問があり、信用性に乏しいものというほかはない。

<1> 池沢ほか四名が独立したスタンドディーラーであったのであれば、各自事業所得の申告をしているべきであるのに何らその旨の申告をしておらず、かえって、渡辺善秀、間路健一、松本久司らは市民税につき給与所得の申告をしている(乙一一、三五、三七)。

<2> 原告は雑誌を卸売したとしながら、池沢らに対しては請求書や納品書を作成しておらず、スタンド店への納品書、請求書(乙三〇の1ないし28)及び領収書(乙二九の1ないし28)はいずれも原告名で作成されている(証人渡辺善秀の第一六回口頭弁論供述)。

<3> 東京出版販売株式会社との取引において、期末計算書等の宛て先が「渡辺ブック」、「池沢ブック」などと記載されたものがあることは認められるものの(甲一三の9ないし14、一四、一五、四〇)、右書証から直ちにを根拠に池沢らが独立したスタンドディーラーであるとはいえない。

<4> 原告の売上伝票の中には、「間路」、「池沢」、「渡辺」、「利川」、「松本」を宛て先とし、〇・八一掛けなどの記載のあるものもあるが(甲三〇)、その旨の記載がない売上伝票も多々存在し、これは、当該商品を配送していた者を明らかにするための記載にすぎないとも考えられる。

<5> 原告は、甲三九がディーラーに対する売掛帳であり、請求書を渡すと同時に控えとして記載していると供述しているが、右帳簿には日付けが前後している部分があること、請求書の控えなどが証拠として提出されていないこと、請求時の差引残高が記載されていない部分があることを考慮すると、甲三九をもって原告が池沢らに対して卸売りをしていたと認定することは困難である。

<6> また、原告と間路健一との間の契約書(甲四四)があるが、これには日付の記載がなく、本件係争年に作成されたことを認定することはできない。

(3) 以上の次第で、池沢ほか四名は原告の雑誌の配送のために雇われた従業員であり、原告は右の者を使って雑誌を配送し、スタンド店と委託販売をしていたと認められる。

(二) 同業者抽出の合理性について

(1) 推計課税は所得を実額で把握することができない場合、すなわち、納税者が正確な記帳をしていないなどの場合に、やむを得ず推計して算定した金額を納税者の所得とみなして課税する制度(所得税法一五六条)であるから、同業者の平均原価率によって推計する場合、比準業者が類似していることは推計の合理性にとって重要な要素であるが、類似性を求めすぎると同業者が皆無であったり、一件しかないということになりかねず、かえって、推計課税が不可能となったり、その原価率の合理性を担保できなくなったりという結果が生ずる。

そして、原告は店舗を有し、書籍、文房具の小売業を営むほか卸売や委託販売まで行っており、その業態がかなり特殊であり、原告との類似性を必要以上に求めると推計課税ができなくなるから、比準同業者が相当程度、原告の業態と類似していれば推計は合理性を有するというべきである。

(2) 乙一ないし一〇、証人上田和幸の供述によれば、別表7ないし9に記載された五つの業者は、<1>新刊の書籍及び雑誌の小売店舗を有していること、<2>スタンド業者を兼ねていること、<3>原告の近隣(葛城、豊能、奈良、泉佐野及び尼崎税務署管内)で申告している同業者及び出版物の取次店であること、<4>その仕入原価が原告のそれのほぼ〇・五倍から二倍以内である青色申告の納税業者を無作為かつ機械的に抽出したものであることが認められる。また、乙六ないし一〇によれば、右の中から支払販売手数料が極めて少ない別表7ないし9の奈良C、泉佐野D及び尼崎Eを除外したのが別表11の葛城A及び豊能Bであることが認められる。

右の抽出基準はそれなりに原告の業態と類似しており、比準同業者が二件であるからといって、推計が不合理ということはできない。

(3) 原告は、比準同業者と原告との売上げに占める委託販売の割合に類似性がないこと、比準同業者の卸売の割合の偏差が大きいことなどを理由として本件推計が合理性を欠くと主張するが、右のとおり原告の業態が特殊で類似同業者を抽出することが困難であることを考えると、二件の比準同業者に相違点があるからといって、推計の合理性を欠くとはいえない。

また、原告は、<1>小売と卸売との割合、<2>卸売利益率、<3>書籍と雑誌の割合に関する比準同業者と原告との間に類似性についての主張・立証がないとして推計の合理性を欠くと主張しているが、右の点まで類似性を求めることは同業者を抽出できないことになりかねないから、原告の主張は採用できない。

(4) したがって、本件推計における同業者の抽出は合理性を有するものと認められる。

3  池沢ほか四名の給与額について

(一) 売上原価をもとに推計により収入が算出される場合、給与や支払販売手数料等の売上原価以外の経費は、単に真の所得の近似値を求めるためにどの程度の経費を計上すれば合理的かという観点から計上されるにすぎず、実額で算定される場合のように厳密さが求められるわけではない。

(二) 原告は、予備的に、委託販売をしていたとしても各自の販売額から歩合制で給与を決めていたとして、別表(10)記載の額を主張し、証人渡辺善秀、同松本久司、同間路健一及び原告本人はその旨の供述をしているが、前記2(一)のとおり右供述は信用できず、また、原告主張の金額を裏付ける帳簿書類は見当たらないから、原告の主張は採用できない。

(三) そして、渡辺善秀、松本久司及び間路健一の給与は市民税の申告書(乙一一、二七及び三五)に記載した別表5記載の額以外には、その給与を客観的に認定できる資料がなく、また、前記2(一)の認定からすると右金額を同人らの給与額とする被告の主張が不合理とはいえない。さらに、池沢徳及び利川利夫については、その所得金額を明らかにすることができないから、昭和五三年分の両名と昭和五四年分の池沢徳については最も所得額の多い渡辺善秀と同額とし、利川利夫の昭和五三年分の一〇月から一二月までの給与を同年一月から九月までの月額給与一〇万円を基準とした各一〇万円として経費を計上した被告の算定方法はそれなりに合理的であると認められる。

(四) したがって、池沢ほか四名の給与は被告主張額であると認められる。

4  委託販売支払手数料について

(一) 国立病院のスタンド店に対する請求書(乙三〇の1ないし28)によれば、販売手数料は定価に一〇パーセントを乗じて算出されていること(ただし、一〇円未満は四捨五入されている)、前記2のとおり、渡辺善秀、松本久司及び池沢徳は国税係官に対し、定価の九〇パーセントでスタンド店から配送した雑誌の集金をしていた旨を供述していること(乙二六の2、二七、三六の2、証人黒仁田修の供述)を考慮すれば、販売委託手数料を一〇パーセントとして算出しても何ら不合理ではない。

(二) ところで、被告は原告の主張の別表(1)記載の卸売分の売上げをもとに支払販売手数料を推計している。原告が委託販売した金額は証拠からは実額を把握することができず、不明というほかない。しかし、推計によって算出された売上金額から差し引く経費の算定としては、原告の第一主張の卸売額全てを委託販売したとして支払販売手数料を推計することはそれなりの合理性を有しているというべきである。

(三) したがって、被告主張の支払手数料を認めることができる。

5  昭和五三年分及び昭和五四年分の雑収入の計上

原告は被告主張額より多い金額を主張しており、少なくとも被告主張額以下ではないことが認められる。

6  その他の経費

昭和五三年分及び昭和五四年分の一般経費、池沢ほか四名を除く給与賃金、地代家賃及び利子割引料、事業専従者控除については、いずれも当事者間に争いがなく(昭和五二年分の事業専従者控除については、原告主張額の方が被告主張額より少ない)、昭和五三年分の貸倒金については、いかなる取引先が倒産して貸倒れが生じたのかが全く不明であるから、右貸倒金があるということはできず、原告の主張は採用できない。

7  したがって、被告主張の所得金額が存在すると認められる。

三  被告の昭和五二年分の予備的主張について

1  仕入原価

(一) 別表4の上田商事分及び推計加算分以外は当事者間に争いがない。

(二) 上田商事分

乙三二によれば、昭和五二年分の六月から一二月までの株式会社上田商事からの仕入れは二〇三万一九一四円であり(この点は争いがない)、それ以前の一月から五月にも原告と株式会社上田商事との間には例月と同様の取引があったことが推認されるから、別表4の参考欄記載のとおり右一月から五月まで推計によって仕入金額を算出することには合理性がある。

(三) 推計加算分

乙三三によれば、昭和五二年分の別表4の仕入金額が空欄になっている仕入先のうち、少なくとも鶴書房及びナンバー出版との取引があったことが認められ、また、平城店及び西大寺店について現金での仕入が全くなかったとまでは考え難い。さらに、原告が、従前昭和五三年分及び昭和五四年分の仕入金額のうち別表3、4の※印が記載された仕入れを主張していなかったことからして、昭和五二年分の仕入れについて被告が捕捉していないものが存在することは明らかである。そして、右捕捉漏れ分を把握するにあたり、従前被告が把握していなかった昭和五三年及び昭和五四年分の取引の捕捉漏れの割合の平均値から算定する方法は、右鶴書房との取引や現金による仕入のほかにも一定の取引はあったと認められるから、推計方法として合理性を有している。

(四) したがって、被告主張額の仕入原価が存在することが認められる。

2  売上金額及び特別経費控除後の金額について

前記二のとおり、原告の売上金額を比準同業者の原価率によって算定する事には合理性が認められる。

また、一般経費及び特別経費は仕入原価とは異なり、売上げとの相関関係は必ずしも大きくなく、景気の変動によって大きく変動するものでもなく、また、原告の業態が昭和五二年とそれ以降とで大幅に変動した事実も認められないから、本人比率によって算出することに合理性がある。

3  事業専従者控除額

被告の主張する四〇万円は、原告の第一主張の額より多く、原告の第二主張においては争いがない。

4  したがって、被告主張の所得金額が存在すると認められる。

第四結論

以上の次第で、原告の本件各係争年分の所得金額は被告の主張のとおり認めることができるところ、右金額はいずれも本件各更正における所得金額を上回っており、本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定はいずれも適法というべきであるから、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 裁判官 近田正晴)

別表1

事業所得の計算

<省略>

別表2

仕入金額明細表(昭和54年分)

<省略>

別表3

仕入金額明細表(昭和53年分)

<省略>

別表4

仕入金額明細表(昭和52年分)

<省略>

別表5

雇人費の計算

<省略>

別表6

<省略>

別表7

<省略>

別表8

<省略>

別表9

<省略>

別表10

事業所得の計算

<省略>

別表11

同業者率表

<省略>

別表12

支払販売手数料の計算

<省略>

別表(1)(第一主張)

<省略>

別表(2)

昭和54年度分売上(小売部門)

<省略>

別表(3)

昭和54年度分卸売売上明細

<省略>

別表(4)

昭和53年度分売上(小売部門)

<省略>

別表(5)

昭和53年度分卸売売上明細

<省略>

別表(6)

昭和53年分仕入集計表

<省略>

別表(7)

昭和54年分仕入集計表

<省略>

別表(8)

昭和53年度雑収入

<省略>

別表(9)

昭和54年度雑収入

<省略>

別表(10)(第二主張)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例